「大学院に行こうか」と考えはじめたとき、多くの人が最初に調べるのは大学院の一覧です。ところが、進学した人の話を聞いていくと、迷いの正体はそこにないことがわかります。自分は何のために行くのか――これが決まっていないと、どの大学院を見ても判断がつきません。本稿では、看護の現場から大学院へ進む道を目的別に整理し、そのうえで出願までに本当に越えなければならない関門を示します。
ある相談の風景
大学に移りたい。教務主任も打診されている。修士が必要だと言われたが、何から手をつければいいのか分からない。
専門看護師を目指したい。大学院の課程に入る必要があると知ったが、どの大学院でもよいのかが分からない。
看護研究の担当になった。もっとちゃんと学びたい気持ちはあるが、研究したいテーマがまだ形になっていない。
三人は同じ「大学院に行きたい」を口にしていますが、必要な準備はほとんど重なりません。ここを分けずに情報を集めると、集めた情報のほとんどが自分に関係のないものになります。
目的は、大きく三つに分かれる

①教員として働く。看護系大学の教員公募では、修士以上が前提になっているものがほとんどです。法令が修士を必須と定めているわけではありませんが、実際の選考ではそう機能しています。昇任の段階では、学位に加えて研究業績が問われます。養成所の専任教員や教務主任の要件は「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」で定められていて、改正が入るため、必ず最新の版で確認してください。この目的で選ぶなら、基準は研究指導が本当に受けられるかです。修士を出ただけでは業績になりません。
②資格を取る。専門看護師は、日本看護協会が認めた教育課程を置く大学院の修士課程を修めることが要件になっています。単位数の基準も定められているため、どの大学院でもよいわけではありません。認定看護管理者にも大学院で看護管理を専攻するルートがあり、助産師の資格を大学院の課程で取る道も広がっています。この目的なら、基準は明快で、その課程が置かれているかどうか。要件は改定されるので、日本看護協会などの一次情報で確かめるのが確実です。
③研究をやりたい。いちばん動機が強く、いちばん迷う層です。目的が資格や職位のように外側から決まっていないので、選ぶ基準は「どの大学院か」ではなく「誰に習うか」になります。そして誰に習うかを決めるには、自分の問いが先に必要になります。
三つは併願できます。けれど選ぶ基準は一つに絞ったほうがいい。基準が二つあると、比較が最後までつきません。
出願までに、本当に越える関門はどこか
入試の中身は、小論文、専門科目の記述、英語、面接。このあたりだと思われていることが多いのですが、実務としては少し違います。

小論文や専門科目には、過去問があり、採点基準が公表されている大学もあり、対策の型が出回っています。時間をかければ埋まる領域です。
一方で、研究計画書の「問い」と指導教員への事前コンタクトには、型がありません。予備校は分野の中身に踏み込めないので教えられず、大学の教員は受験前の人を指導できません。誰も教えてくれない場所に、いちばん重い関門があります。
研究計画書は「やりたいこと」ではなく「明らかにしたいこと」
提出される研究計画書の多くは、動機の書類になっています。臨床でこういう場面に困っている、こういう患者さんを何とかしたい――切実で、読めば伝わります。けれどそれは動機であって、問いではありません。
問いは「何が分かっていないのか」です。困っていることと、分かっていないことは違います。困っている場面について、すでに答えが出ている部分と、まだ誰も確かめていない部分がある。その後者を一文で言い切れたとき、はじめて研究計画書が始まります。
出願前に、自分の計画書へ向ける5つの質問
- 明らかにしたいことを、疑問文で、一文で言えるか
- それがまだ答えられていないと、どうして言えるのか(読んだ文献で示せるか)
- その問いに、自分が考えている方法で答えが出るか
- 答えが出たら、現場の何が変わるのか
- なぜ、その大学院のその先生に習う必要があるのか
1が書けないまま2〜5に進むと、全部が動機の言い換えになります。逆に1が決まると、残りは調べれば埋まります。ここに時間を使う価値があるのは、そのためです。
指導教員へは、出願より先に連絡する
日本の大学院では、出願前に希望する指導教員と面談しておくことが、実質的に大きな意味を持ちます。研究室の受け入れ余裕、指導できるテーマの範囲、社会人としての通学が成り立つかどうか――これらは募集要項に書かれていません。書かれていないことを確かめる場が、事前面談です。
連絡が空振りになる典型は、テーマだけを書いて送ってしまうことです。「認知症看護に関心があります」では、受け取った側は何も判断できません。返信に必要な材料が入っていないからです。入れるべきものは4つです。自分が誰か(所属と臨床経験)、何を明らかにしたいのか、なぜその先生なのか(読んだ論文を挙げる)、そして面談のお願い。ここまで書いてあれば、断られる場合も理由つきで返ってきます。理由が分かれば、次の候補に進めます。

順番が大事です。計画書を完成させてから連絡すると、面談で受けた指摘を反映する余地がなくなります。問いの骨格ができた段階で連絡し、面談で受けた指摘を計画書に入れる――この順番のほうが、書類も面接も強くなります。
合格は、ゴールではなく起点です
ここまでを読んで、「入試のためにそこまでやるのか」と思われたかもしれません。ですが、問いを固める作業は入試のためではありません。
働きながらの修士課程は、実質2年です。問いが決まっていない状態で入学すると、1年目がそれを決めることに費やされ、データを取り、解析し、書く時間が2年目に押し込まれます。指導教員の側から見た同じ問題を、別の記事で書きました。社会人大学院生の1年目が、どこへ消えるのか――受け入れる側の視点で読むと、出願前に問いを固めておくことが何を節約するのかがはっきりします。
私たちは、この出願前の段階から伴走しています。問いを一文にするところから、指導教員への連絡文、研究計画書、そして入学後の解析と論文まで。ただし、書くのはご本人です。代筆はお引き受けしていません。研究公正の方針は当社の公開ページ、支援の設計と料金は伴走支援プログラムのページと料金のご案内でご確認いただけます。
いま、進学を考えている方へ――4つの動き

- 目的を一つに絞る教員・資格・研究のどれが本命か。併願はできますが、比較の基準は一つにします。ここが決まると、見るべき大学院が一気に減ります。
- 通えるかどうかで候補を絞る長期履修制度、夜間・土日の開講、オンラインでどこまで完結するか。資格が目的なら課程の認定の有無、費用面では専門実践教育訓練給付金の指定講座かどうか(給付率と上限は改正が入るので、厚生労働省の最新情報をご確認ください)。学べる内容より先に、続けられるかを確かめます。
- 指導教員に会う出願前の面談を申し込みます。連絡には、自分が誰か・何を明らかにしたいか・なぜその先生か・面談のお願いの4つを入れてください。
- 問いを固めてから出願する「明らかにしたいこと」を一文にしてから出す。合格の確率が上がるだけでなく、入学後の1年が丸ごと残ります。ひとりで一文にするのが難しいときは、当社の伴走支援もご検討ください。書くのはご本人、という前提は変わりません。
大学院は、行けば学べる場所ではありません。問いを持って行った人が、その問いを育てる場所です。逆に言えば、問いさえ立っていれば、大学院はその先ずっと使える道具になります。
あなたの問いは、もう一文になっていますか。
その研究計画書、「明らかにしたいこと」が一文で書けていますか。
博士(医学)の研究メンターが、出願前の問いの整理から入学後の研究まで一貫して伴走します。初回のご相談とお見積りは無料です。
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