不採択の通知が届いたあと、多くの方が同じことをします。所見を一度読んで、しばらく見ないようにする。そして次の公募の時期になって、また同じ申請書を少しだけ直して出す。――これは、いちばんもったいない使い方です。審査結果の所見は、審査委員の感想ではありません。あなたの申請書のどの欄が伝わらなかったかの記録です。本稿では、その記録を次の申請書に変える手順を整理します。
ある相談の風景
2年続けて出して、2年とも通らなかった。所見も読んだが、書いてあることが抽象的で、どこをどう直せばいいのか分からない。
順位が真ん中あたりだった。惜しかったのか、まるで届いていないのか、判断がつかない。
指摘された点は、実は本文に書いてある。読まれていないのではないか、という気持ちが消えない。
三人めの感覚は、実はいちばん重要な手がかりを含んでいます。書いてあるのに伝わっていない――それは、内容ではなく書き方の問題だという診断結果だからです。この点は後で詳しく扱います。
通知から読み取れることと、読み取れないこと
まず、材料の範囲を確かめます。通知に含まれる情報は種目や年度によって異なりますので、ご自身の通知に実際に何が記載されているかを確認してください。そのうえで、一般に読み取れる範囲と読み取れない範囲は、おおよそ次のように分かれます。

時間を使うべきは左側だけです。右側は、いくら考えても答えが出ません。そして考え始めると、必ず「運が悪かった」「分野が合わなかった」という結論に行き着きます。それは慰めにはなりますが、次の申請書は1文字も進みません。
特に「あと何点だったか」は、知っても行動が変わらない情報です。惜しくても届かなくても、やることは同じ――伝わらなかった欄を直すこと、それだけです。
低かった評定要素が、直す場所を教えている
所見を「全体への評価」として読むと、途方に暮れます。そうではなく、評定要素ごとに分解して読むと、直す場所が特定できます。

学術的な重要性が低い場合。問いが立っていないか、その問いが未解決である根拠が示されていないかのどちらかです。多くは後者です。「先行研究がない」と書いただけでは、調べていないのか本当にないのかが読み手に判別できません。記事「審査委員の視点で書く科研費申請書」で書いた3ステップ――主流を定義し、その到達点と限界を示し、自分の座標を置く――に戻ってください。
研究計画の妥当性が低い場合。問いと方法が噛み合っていません。よくあるのは、方法が先に決まっていて、問いがそれに合わせて後から作られている形です。この場合、方法をいくら詳しく書いても評価は上がりません。問いのほうを直します。あわせて、うまくいかなかった場合の代替案が書かれているかも確認してください。
遂行能力が低い場合。これは業績が足りないという意味とは限りません。「この体制で、本当に明日から走れるのか」が見えていないという指摘であることが多い。予備データが文章で書かれていないか、研究体制の役割分担が「なぜその人か」まで書かれていないか、倫理審査の現在の状況が書かれていないか。このあたりは、業績を増やさなくても今日直せます。
「書いてあるのに伝わっていない」という所見の読み方
冒頭の三人めの話に戻ります。指摘された内容が実は本文に書いてある、という経験は珍しくありません。
このとき、読まれていないと考えるのは間違いです。審査委員は限られた期間に多くの申請書を読みます。そして評定要素に対応する記述を探しながら読んでいます。書いてあっても、探している場所になければ、無いのと同じ扱いになります。
だから対処は、内容を足すことではありません。置き場所を変えることと、見出しを立てることです。【学術的独自性】【創造性】のようにラベルを付けてブロックで書き分ける。問いは疑問文で、一行で、視覚的に独立させる。これだけで、同じ内容が評価されるようになります。
逆に言えば、この所見が来たときは希望があります。内容は足りていて、構造だけが問題だからです。
所見を、作業リストに変える
読んで終わりにしないために、手を動かす形にします。
通知が届いたら、この順で書き出す
- 所見を、評定要素ごとに切り分けて書き写す(一言一句そのまま。要約しない)
- 複数の委員が共通して指摘している点に印をつける。そこが最優先です
- 各指摘について「内容が足りない」のか「伝わっていない」のかを判定する
- 「伝わっていない」に分類されたものは、直す欄と、どう見せるかを1行で書く
- 「内容が足りない」に分類されたものは、次の締切までに用意できるかを判断する
2番が肝心です。一人の委員だけが書いた指摘は、その委員の専門との相性の問題であることがあります。複数が同じことを書いていたら、それは相性ではなく申請書の問題です。限られた時間は、そこに使ってください。
5番で「用意できない」と判断したものは、無理に埋めようとせず、限界として明記する方向も検討してください。書けない予備データを匂わせるより、現時点でどこまで確かめられていて何が未確認かを正確に書くほうが、遂行能力の評価としては安定します。
次の締切までを、逆算する

所見を書き出す作業だけは、通知が届いてすぐにやってください。時間が経つほど、当時どう書いたかの記憶が薄れ、所見と本文の対応が取れなくなります。読むのは早く、直すのはゆっくりで構いません。
そして初秋に、分野の外にいる人に読んでもらう時間を必ず確保してください。同じ分野の同僚は、あなたが省略した前提を無意識に補って読みます。補われないと成立しない申請書は、審査でも同じところでつまずきます。
私たちは、この所見の読み解きから次の申請書の改訂までを支援しています。過去の申請書と所見をお預かりし、どの欄が伝わらなかったのかを特定するところから始めます。査読と修正の往復には2〜4週間ほど見込むのが安全ですので、公募の締切から逆算してお早めにご相談ください(料金の目安はこちら、支援の設計は研究メンターのページをご覧ください)。ただし採択を保証するものではありません。
不採択が続いているときに、確かめたいこと
- 同じ種目で出し続けているか基盤研究か挑戦的研究か、あるいは若手研究か。種目によって評価されるものが違います。問いの性質と種目が合っていない場合、書き方をいくら直しても届きません。
- 小区分の選択は適切か審査は小区分ごとに行われます。研究の内容と選んだ区分がずれていると、その区分の専門家から見て「なぜこれがここに」となります。所見の噛み合わなさが続くときは、ここを疑う価値があります。
- 2年分の所見を並べたか1年分では偶然と区別できません。2年分を並べて、同じ指摘が繰り返されていれば、それが本丸です。逆に毎年違うことを言われているなら、まだ全体の伝わりやすさの問題かもしれません。
- 自分以外の目を通したか書いた本人には、省略した前提が見えません。同僚でも、分野外の知人でも構いません。読んでもらう相手がいないときは、当社の伴走支援もご検討ください。書くのはご本人で、当社は査読と助言を担います。
不採択の通知は、落選の連絡であると同時に、無料でもらえる査読結果でもあります。同じ分野の専門家が、時間を使ってあなたの申請書を読み、どこが伝わらなかったかを書いて返してくれている。これほど具体的なフィードバックを、他のどこで得られるでしょうか。
その所見、書き出しましたか。