審査委員の視点で書く科研費申請書

科研費・研究費

科研費の審査結果に「研究の質が低い」と書かれることは、まずありません。不採択の通知が示しているのは多くの場合、研究のアイデアそのものの否定ではなく、審査委員に伝わる形で書かれていなかったという事実です。裏を返せば、申請書は「良い研究をすること」とは別の技術――読み手から逆算して書く技術――で大きく改善できます。本稿では、私たちが申請書の査読・添削で実際に判断基準にしている型のうち、根幹の5つの原則を公開します。

まず、読み手を知る――審査のしくみ

基盤研究(C)や若手研究などの多くの種目では、申請書は小区分ごとに割り当てられた審査委員が読む、2段階の書面審査で評価されます。ここで大事なのは、読み手が一人ではないことです。あなたの申請書は、おおむね次の3タイプの委員に読まれます。

科研費審査のしくみの図。申請書は同じ分野の専門家(委員A)、近い分野の研究者(委員B)、周辺領域の研究者(委員C)の3名に読まれ、いちばん遠い委員Cに伝われば全員に伝わる
図1 読み手は一人ではない――3類型の審査委員

同じ分野の専門家(委員A)、近い分野の研究者(委員B)、そして周辺領域の研究者(委員C)。しかも各委員は限られた期間に多くの申請書を読みます。専門家仲間に向けた精密で圧縮された文章は、この読書環境では機能しません。評定要素――学術的な重要性、計画の妥当性、遂行能力――のどれも、「伝わったうえで」初めて評価されるからです。

原則1|概要は最後に書き、冒頭10行に4要素を入れる

研究目的の概要欄は、申請書の中で最も読まれる場所です。ここだけで第一印象――ときには評価の骨格――が形成されると考えて書くべきです。型はシンプルで、背景(現状と先行研究の限界)→問い→独自アプローチ→波及効果の4要素を冒頭10行に凝縮します。

概要・冒頭10行の4要素の型。背景、問い、独自アプローチ、波及効果の順に流し、本文をすべて書き終えてから最後に書く
図2 概要の型――そして、書くのは最後

そして書く順番。概要は様式の先頭にありますが、書くのは本文をすべて仕上げた後、最後です。先に書くと「これから書く予定のこと」の要約になり、本文とズレます。完成した本文から蒸留するから、10行に研究の全体が宿ります。

原則2|「目的」と「問い」を分ける

不採択申請書に最も多いパターンのひとつが、目的と問いの混線です。目的は到達点(何を実現したいか)、問いは明らかにしたいこと(何が分かっていないか)。この2つは別物で、問いは疑問文で、1行で、視覚的に独立させて書きます。地の文に埋めないでください。審査委員が「この研究は何を明らかにするのか」を探す時間を、ゼロにするためです。

あわせて、言葉の選び方を2つ。第一に「検討する」「解析する」といった曖昧語は、何がどうなれば達成なのかが読めないため、評価のしようがありません。第二に「極めて重要」「独創的」といった自己評価語は書かないこと。重要さと独自性は、形容詞ではなく事実(データ・文献・空白)に語らせます。

原則3|「独自性」と「創造性」を書き分ける

様式の中で最も筆が止まりやすいのが、学術的独自性と創造性の説明でしょう。書けない一因は、この2つを同じものだと思って混ぜてしまうことにあります。まず定義を分けます。独自性は「いま、先行研究に対して何が新しいか」――現在の差分です。創造性は「この研究が成功したら、その先にどんな学術が生まれるか」――未来への生成力です。独自性は過去との比較で書き、創造性は未来への接続で書く。向いている時間の方向が、そもそも違うのです。

独自性は、自分の研究だけでは定義できません。必ず「何と比べて」が要ります。対比の相手(先行研究の到達点)を明示したうえで、新しさがどの軸にあるのか――対象か、方法か、データか、視点の組み合わせか――を特定して書きます。「本邦初」「世界初」の範囲も厳密に。盛った“初”は、同じ分野の委員が最初に気づきます。そして先の原則の通り、「独創的である」と自己評価するのではなく、「〜を検証した報告は存在しない」という欠落の事実に語らせてください。

創造性は、波及効果と地続きです。「この問いが明らかになれば、□□という新しい問いに接続できる」「ここで作る方法・データは、△△の研究基盤としても機能する」――研究の完成がゴールではなく起点になることを、具体の出口(次の研究・応用・分野への広がり)とセットで示します。書き方の作法をひとつだけ。目的・独自性・創造性を一つの段落に溶かさず、【学術的独自性】【創造性】のようにラベルを立ててブロックで書き分けること。審査委員は評定要素に対応する記述を探しながら読むので、「探させない構造」がそのまま評価のしやすさになります。

原則4|位置づけは“3ステップ”で示す

学術的な位置づけの欄で「本研究は独自である」と主張しても、審査委員は頷けません。本体になるのは3ステップの構文です。①この領域の主流を定義する → ②主流の到達点と限界を示す → ③その限界に対する自分の座標を置く。このとき、先行研究の限界と自分の知見を「一方で」と並べるのではなく、限界→自分の予備知見→その拡張という因果で接続すると、なぜあなたがその空白を埋められるのかまで一続きに伝わります。

そのうえで――これは必須ではありませんが――紙幅と分野が許すなら、2軸のポジショニングマップを添えるのは強力な選択肢です。

2軸のポジショニングマップの模式図。先行研究の位置を打点し、まだ埋まっていない空白地帯に本研究を置いて見せる
図3 ポジショニングマップの例――空白は、図にすると一目で伝わる

先行研究を2つの軸の上に打点すると、埋まっていない空白が視覚的に現れ、そこに本研究を置けば独自性が一目で伝わります。ただし、自然な2軸が引けない研究に無理にマップを当てはめると、軸の恣意性の方が目立ってかえって逆効果です。迷ったら、3ステップの構文を文章で丁寧に踏む――それだけで位置づけの仕事は果たせます。

原則5|「明らかにすること」を書き、走れる証拠を添える

研究計画の欄で審査委員が見ているのは、「この人はできることを並べているのか、明らかにすることを設計しているのか」です。年次計画は最終年度の着地点まで描き切り、うまくいかなかった場合のPlan Bを添えます。計画に穴がないことではなく、穴があったときの備えがあることが、遂行能力の証明になります。

そのうえで、「明日から走れる」ことを示す証拠を3種類。予備データは文章でなく図表で。研究体制は「なぜその人か」が分かる役割分担で。倫理審査やデータアクセスは現在の状況を明記で。最後にひとつ、図の作り方を。論文の図を縮小して貼るのは、最も損な選択です。論文の図は専門家向けにできています。申請書には、委員Cが一目で構造をつかめる申請書専用の図を描き直してください。

提出前セルフチェック

提出前に確かめる、5つの質問

  1. 概要の冒頭10行に、背景・問い・独自アプローチ・波及効果の4要素が入っているか
  2. 問いは疑問文で、1行で、視覚的に独立して見えるか
  3. 独自性を「独創的」などの自己評価語でなく、先行研究との差分という事実で書いているか
  4. 年次計画は最終年度の着地点まで描かれ、Plan Bが添えられているか
  5. 図は申請書専用に描き直したか(論文図の縮小コピペになっていないか)

私たちは、この型をそのまま判断基準として申請書の査読・添削を行っています。研究計画の壁打ちから提出直前の最終チェックまで対応できますが、査読と修正の往復には2〜4週間ほど見込むのが安全です。公募の締切から逆算して、お早めにご相談ください(料金の目安はこちら)。

審査委員は、あなたの研究の敵ではありません。最初の読者です。読み手を知り、読み手から逆算して書く――それだけで、同じ研究計画がまるで違う顔になります。相手を知れば、勝ち方が見えてきます。

その申請書、“いちばん遠い読者”に伝わりますか。

博士(医学)の研究メンターが、審査基準の型に基づいて申請書を査読・添削します。

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