検索して出てこないのは、無いからではありません――文献検索の設計

研究スキル情報

検索欄に思いついた語を入れる。ぱらぱらと出てくる。ぴんと来ないので、別の語に変えてみる。また入れ直す。これを何十回か繰り返して、「この分野には先行研究がない」と結論する。よくある道筋ですが、たいていの場合、先行研究はあります。探し方の設計がないだけです。

この記事では、検索式をどう組むか、出てきた件数をどう読むか、記録として何を残すかを扱います。前回の記事が「読んだ文献をどう書くか」だったので、その手前の話になります。

思いついた語を入れる、をやめる

まず、なぜうまくいかないのかを整理します。理由は3つあります。

ひとつは、同じ概念に複数の言葉があることです。職場のいじめを扱った研究は、bullying、incivility、mobbing、workplace violence、horizontal violenceなど、さまざまな語で書かれています。ひとつの語だけで検索すれば、それ以外は全部こぼれます。

ふたつめは、データベースが独自の索引語を持っていることです。PubMedならMeSH、CINAHLならCINAHL Headings、医中誌なら医中誌シソーラス。論文には投稿時のキーワードとは別に、データベース側が付けた統制語が振られています。この存在を知らないまま自然文で検索すると、拾えるはずのものを落とします。

みっつめは、結果を記録していないことです。何をどう入れて何件出たかを残していないので、次に何を試すべきかが分からない。同じ語を何度も入れ直すことになります。

検索式は、まず2つのブロックのANDで組む

設計の基本形です。問いを要素に分解し、それぞれをブロックとして作り、ANDでつなぎます。まずは2つで組みます。

対象・現象・アウトカムの3ブロックをANDでつなぐ検索式の構造を示した図
図1 まず①と②で組み、多すぎるときだけ③を足す

①対象は、誰を調べるのか。看護学生、新人看護師、大学院生。②現象は、何が起きているのか。職場いじめ、ハラスメント、離職。この2つで組むのが出発点です。

③アウトカム(どうなるのか。バーンアウト、離職意図など)は、任意の第3ブロックとして扱ってください。件数が多すぎるときにだけ足します。

各ブロックの中には、同じ意味の語を全部入れてORでつなぎます。日本語と英語、略語と正式名称、単数と複数。ここを厚くするほど、取りこぼしが減ります。

ブロック①(対象)の例 看護学生 OR 看護学生 OR nursing student* OR student nurse*

括弧を忘れると、意図どおりに動きません

ここで最初につまずくのが演算子の優先順位です。多くのデータベースは ANDOR より先に処理します。つまり、括弧をつけずに書くと、思っているのとは違う式になります。

括弧なし(意図と違う動きをする) 看護学生 OR 看護師 AND いじめ
これは「看護学生に関する全文献」と「看護師 かつ いじめ」の和になります。看護学生の文献が、いじめと無関係なものまで全部入ってしまう。
括弧あり(意図どおり) (看護学生 OR 看護師) AND いじめ
「看護学生または看護師」で、かつ「いじめ」を扱ったもの。これが本来やりたかったことです。

ブロックの中身は必ず括弧で囲む。そう覚えておけば間違えません。ブロックが3つになれば (①) AND (②) AND (③) という形になります。

なお、検索履歴の番号を使えるデータベースでは、括弧を書かずに済みます。ブロックごとに検索を実行して #1 #2 という番号を付け、最後に #1 AND #2 と組み合わせる方式です。PubMedや医中誌Webはこれができます。式が長くなるほど、こちらのほうが安全で、記録も残しやすくなります。

そしてブロックどうしをANDでつなぐ。①と②だけなら「看護学生を対象に、職場いじめを扱った研究」に絞れます。

アウトカムは、入れないほうがよい場合があります

3つ4つとブロックを増やしたくなりますが、増やすほど件数は減ります。減りすぎると、あるはずの文献が消えます。

とくに注意が要るのがアウトカムです。系統的レビューでは、アウトカムを検索式に入れないのが標準的な考え方です。アウトカムは索引の付き方が安定せず、抄録にも書かれないことがあるため、検索式に入れると本来拾うべき文献を落とします。対象と介入(または現象)の2〜3概念で検索し、アウトカムは後工程のスクリーニングで判断する。この順序が推奨されています。

まず①と②で組んで件数を見る。多すぎるときだけ③を足す。最初から絞り込むと、絞りすぎたことに気づけません。

絞り込む前の件数も、必ず取る

③を足した場合も、外した件数は必ず記録してください。これは記事を書くときに効いてきます。3ブロックで50件、アウトカムのブロックを外すと800件。この差が意味を持ちます。

「この現象を扱った研究は800件あるが、そのうちバーンアウトまで見ているのは50件にとどまる」。これは、自分の研究の位置づけを示す定量的な証拠になります。緒言で「〜については十分に検討されていない」と書くとき、根拠がある場合とない場合では説得力がまるで違います。

検索の途中経過は、捨てずに取っておく。それ自体が論文の材料になります。

統制語とフリーワードを、両方使う

ブロックの中身を作るときの話です。

統制語は、データベースが論文に付けた索引語です。表記のゆれを吸収してくれるので、これで引くと漏れが減ります。PubMedのMeSH、CINAHL Headings、医中誌シソーラス。

フリーワードは、題名や抄録の文字列そのものを引く方法です。新しい概念や、まだ統制語が用意されていない語は、こちらでしか拾えません。

実務では両方を使い、ORでつなぎます。統制語だけだと、索引がまだ付いていない最新論文を落とします。フリーワードだけだと、別の語で書かれた論文を落とします。

統制語の見つけ方

思いつく語で一度検索して、出てきた論文のうち「まさにこれ」というものを1本開きます。その論文にどんな統制語が振られているかを見る。それが正解の語です。

この手順は覚えておく価値があります。統制語の一覧を最初から探すより、実物から逆に辿るほうが速く、確実です。

フリーワードのコツ

後ろを切ります。nurs* と書けば、nurse、nurses、nursing がまとめて引けます。日本語のデータベースでも部分一致が使えることが多いので、「看護師」「看護職」を別々に入れなくて済む場合があります。

語句をそのまま探したいときは引用符で囲みます。"workplace bullying" とすれば、この2語が並んでいる場合だけを引きます。囲まないと、workplace と bullying が別の場所にある論文まで拾ってしまいます。

件数を見て、次の一手を決める

検索して件数が出たら、それは結果ではなく指示です。多すぎても少なすぎても、次にやることが決まります。

件数の目安と、それぞれの場合に取るべき次の手順を示した図
図2 件数は結果ではなく、次の指示

0件や数件しか出ないとき、多くの人は「先行研究がない」と考えます。ほとんどの場合そうではなく、語が狭すぎるだけです。統制語を確認し、同義語を足す。それでも増えないなら、ブロックのどれかを外してみる。どのブロックを外すと件数が動くかで、どこが効きすぎているかが分かります。

500件を超えたら、絞ります。ただし絞り方には順序があります。まず対象や現象のブロックの語が広すぎないかを見る。次に期間で切る。アウトカムのブロックを足すのは、そのあとです。研究デザインで絞るのは最後にしてください。デザインで絞ると、質的研究や事例報告が一括で消えます。

「ちょうどよい件数」に正解はありません

図では20〜100件を目安として示しましたが、これは全文を読める現実的な上限という意味です。系統的レビューなら数千件を扱いますし、狭い問いなら10件で十分なこともあります。自分がどこまで読めるかと、問いの広さの兼ね合いで決めてください。

機関契約がない場合の組み立て

所属先の契約状況によって、使えるデータベースは大きく変わります。企業に所属している方、非常勤の方、修了後に研究を続けている方は、有料データベースが使えないことがあります。

その場合でも、無料のもので相当なところまで組めます。

データベース範囲備考
PubMed医学・生命科学(英語)無料。MeSHが使える
ERIC教育学(英語)無料版のサイトがある
J-STAGE国内の学会誌無料。全文が読めるものが多い
CiNii Research国内の論文・学位論文無料
OpenAlex分野横断の書誌無料。APIで大量取得も可能
Google Scholar分野横断引用の追跡に向く。網羅性の根拠には使いにくい

有料側の代表は、CINAHL(看護)、PsycINFO(心理)、Scopus、Web of Science、医中誌Web。医中誌は国内の医学・看護文献では代えがきかないので、国内文献を扱うなら利用手段を確保しておきたいところです。所属機関がなくても、公立図書館や大学図書館の学外利用で使える場合があります。

役割を分けて使う

すべてのデータベースで同じ検索式を回す必要はありません。日本語文献の網羅は医中誌とCiNii、英語の理論的な参照はPubMedとERIC、引用の追跡はGoogle Scholar。役割を決めておくと、検索式もそれぞれに合わせて調整できます。

ひとつのデータベースで組んだ式を、そのまま別のデータベースに貼り付けても動きません。統制語の体系も、演算子の書き方も違います。ブロックの設計だけを共通にして、中身は各データベースで組み直す。これが正しい進め方です。

記録として、何を残すか

ここを飛ばすと、あとで必ず困ります。特にレビュー論文を書くつもりがあるなら、記録がないと方法の節が書けません。

  • 使ったデータベースの名称
  • 検索を実行した日付(データベースは日々更新されるため、日付がないと再現できません)
  • 検索式の全文(ブロックごとに分けて、演算子も含めて)
  • 絞り込み条件(期間、言語、文献種別、会議録を除いたか)
  • ヒット件数
  • 重複除去の前と後の件数

Excelで1シート作り、データベースごとに行を足していく形で十分です。試行錯誤の過程も残しておくと、なぜこの式に落ち着いたかを説明できます。

残っていないと 「PubMedとCINAHLで検索した」としか書けない。査読で「検索式を示してください」と言われて、もう一度やり直すことになる。
残っていれば 「PubMed(2026年8月31日実施)で#1〜#3を組み合わせ337件、CINAHLで315件、重複除去後677件」と書ける。方法の節がそのまま埋まる。

検索式は、一度で決まりません

最後に、心構えの話です。

きれいな検索式を最初から書こうとして手が止まる人がいます。実際には、組んでは件数を見て、語を足して、また回す。この往復を10回20回と繰り返して、だんだん形になります。

だから、最初の1回は雑でいいのです。3つのブロックを作って、思いつく語を並べて、回してみる。件数が出れば、次に何をすべきかは図2のとおりに決まります。手を動かさないと何も決まりません。

そして、途中で出てきた「まさにこれ」という論文は、必ず取っておいてください。その論文の統制語、参考文献リスト、そしてその論文を引用している論文。この3方向をたどるだけで、検索式では拾えなかったものが見つかります。

おわりに

文献検索は、センスや経験の問題に見えて、実際にはほとんど手続きです。ブロックに分ける、統制語を確認する、件数を見る、記録を残す。この4つを順に踏むだけで、行き当たりばったりの検索とは違う結果になります。

そして、ここで作った記録が、そのままレビューの方法の節になり、緒言の「まだ検討されていない」の根拠になります。検索は下準備ではなく、すでに執筆の一部です。

※ 各データベースの機能や提供条件は変更されることがあります。実際の利用にあたっては、各データベースの案内と、所属機関の契約状況をご確認ください。
※ 本文中の検索語の例は説明のためのものであり、特定の研究テーマに最適化されたものではありません。

次のステップ:系統的レビューを書く場合

この記事は、検索の入口にあたる部分を扱いました。システマティックレビューやスコーピングレビューを書く段階になると、統制語のExplosion、PubMedの自動マッピング(ATM)の無効化、データベース間の検索式の翻訳、Cochraneの高感度検索フィルター、灰色文献や試験登録の扱いといった論点が加わります。

これらは当社のサポートサイトで、PubMedの検索タグ一覧とあわせて解説しています。
高度な文献検索式&PubMedタグ 完全ガイド

検索式を組むところから、一緒に

ブロックの設計、統制語の確認、件数の診断まで。博士(医学)の代表が直接お受けしています。「先行研究が見つからない」という段階のご相談も歓迎です。

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