投稿の直前になって著者の順番が変わる。自分が集めたデータなのに筆頭ではない。研究室の全員が著者に並んでいる。修了して数年後、知らないうちに自分の名前が載った論文が出ている。オーサーシップをめぐる相談は、思っているよりずっと多く寄せられます。
著者の要件は、国際的にはとうに確立しています。それでも揉めるのはなぜか。そして、どうすれば防げるのか。順に整理します。
まず、基準そのものは明確です
医学系の論文で広く参照されているのが、ICMJE(医学雑誌編集者国際委員会)の基準です。多くの学術誌が投稿規程でこれを採用しています。
重要なのは、この4つがすべて必要だという点です。どれか1つでも欠ければ、その人は著者ではなく、謝辞に記載される立場になります。
この構造を知っていると、いくつかのことがすぐ分かります。データを提供しただけの人は著者になりません。資金を獲得しただけの人も、研究室を主宰しているだけの人も、統計解析を受託しただけの人も、それだけでは著者の要件を満たしません。逆に、原稿を一度も読んでいない人が著者に並んでいるのは、③と④を満たさないので不適切です。
分野によって作法は違います
ICMJEは医学系の基準です。工学系では研究室主宰者が最終著者に入る慣行が強く、人文系では単著が基本で共著は限定的です。分野の慣行と学術誌の投稿規程を、まず確認してください。ただし「うちの分野ではそうだから」で説明できる範囲には限度があります。
それでも揉めるのは、基準が力関係を消さないからです
ここが本題です。
基準を知らないから揉めるのだ、と説明されることがあります。半分は当たっていますが、半分は違います。多くの場合、当事者は基準を知っています。知ったうえで、言えないのです。
学位審査を控えた院生が、指導教員に向かって「先生は要件を満たしていません」と言えるでしょうか。次の職を紹介してもらう立場の人が、共同研究者に順位の変更を求められるでしょうか。基準は判定の道具であって、それを持ち出せるかどうかは別の問題です。
オーサーシップの問題は、知識の問題ではなく、いつ話すかという問題です。
だから対処も、そこに合わせることになります。
不適切なオーサーシップは、二方向にあります
もうひとつ、押さえておきたい整理があります。不適切なオーサーシップには、方向の違う2つの型があります。
名誉オーサーシップは、基準を満たさない人を著者に加えることです。ギフト(贈る)、ゲスト(招く)、強制(立場を使って入れさせる)と呼び分けられることもありますが、いずれも同じ型です。
ゴーストオーサーシップは逆で、基準を満たす人を著者から外すことです。実際に手を動かした若手が入っていない、企業の担当者が伏せられている、といった形で起きます。
満たさないのに載せれば「名誉」、満たすのに外せば「ゴースト」。どちらも、同じ4基準に照らして不適切になります。
この対を知っておくと、自分の立場を見誤らずに済みます。外された経験のある人が、別の場面では良かれと思って誰かを載せてしまうことがある。ルールは双方向で、どちらの向きにも同じように働きます。
決める時期を、前に倒す
同じ「著者をどうするか」という会話でも、時期によって難易度がまるで違います。
着手時なら、まだ誰の貢献も確定していません。誰も損得を計算できない状態なので、原則論として話せます。「投稿規程はICMJEですから、それに沿って決めましょう」と言うことに、角が立ちません。
解析が終わった時点なら、誰が何をしたかが見えています。調整はまだ効きます。
投稿直前は、いちばん難しい。原稿ができていて、順位も暗黙に決まっている。ここで異議を唱えると、関係を壊す覚悟が要ります。そして、揉めるのはたいていこの時点です。
着手時に、何を決めておくか
完璧な合意でなくて構いません。次の3つが口頭でも共有されていれば、後の交渉がまったく違うものになります。
- 誰が著者になる見込みか(現時点での想定でよい)
- 筆頭と責任著者を誰にするか
- 投稿先の投稿規程に従って最終判断する、という原則
3つめが効きます。個人の意向ではなく規程に従うと先に決めておけば、後で誰かが「自分も入れてほしい」と言ってきたときに、人格の問題にせずに済みます。「規程ではこうなっています」と言えるからです。
言い出しにくいときの切り出し方
立場が下だと、この会話を始めること自体が難しい。そういうときは、自分の希望としてではなく、手続きの確認として持ち出すのが現実的です。
自分の取り分の話ではなく、投稿手続きの準備として話す。この形なら、立場が下でも切り出せます。
貢献を記録しておく
もうひとつ、地味ですが効くのがこれです。誰が何をしたかを、進行中に記録しておく。
近年は多くの学術誌がCRediT(貢献者の役割の分類)を採用しています。構想、方法論、ソフトウェア、検証、形式解析、調査、資源、データキュレーション、原稿執筆(初稿)、原稿執筆(レビューと編集)、可視化、監督、プロジェクト管理、資金獲得。14の役割に分けて、誰がどれを担ったかを記載する仕組みです。
これがあると、議論が具体的になります。「貢献した/していない」という水掛け論ではなく、「あなたは資金獲得と監督、私は調査と形式解析と初稿執筆」という形で並びます。そして、資金獲得と監督だけではICMJEの4基準を満たさないことが、目に見えます。
投稿規程がCRediTを求めていなくても、自分の記録として付けておく価値があります。日付と担当者を書いた簡単な表で十分です。
CRediTは、著者資格の判定基準ではありません
14の役割はあくまで貢献の記述であって、そのどれかに当てはまれば著者になれる、という意味ではありません。著者資格そのものはICMJEの4基準で判断します。たとえば資金獲得と監督だけを担った人は、CRediTには記載されうるが、4基準は満たさないので著者ではない、という整理になります。この2つを混同すると、名誉オーサーシップの根拠に使われてしまいます。
揉めてしまってから、できること
予防の話ばかりでは足りません。すでに起きてしまった場合です。
| 相談先 | できること |
|---|---|
| 投稿先の編集部 | 著者要件の解釈について問い合わせる。掲載後の著者変更には所定の手続きがあり、全著者の同意を求められるのが通例 |
| 所属機関の研究倫理・公正研究の窓口 | 研究不正としての申立て。ギフトオーサーシップやゴーストオーサーシップは、多くの機関で不正行為の対象に含まれる |
| 学会の倫理委員会 | 会員間の問題として扱われる場合がある。学会の規程を確認 |
| 機関のハラスメント相談窓口 | 指導上の力関係が背景にある場合。オーサーシップ単体でなく、指導関係の問題として扱われることがある |
| 外部の第三者窓口 | 機関内で相談しづらい場合の選択肢 |
どこに持ち込むにしても、記録が要ります。いつ誰と何を合意したか、原稿のどの版を誰が書いたか、メールでのやりとり。記憶だけでは扱えません。
現実的な話をひとつ
申立てには時間と労力がかかり、その間の関係も悪化します。学位取得や就職を控えている場合、それを引き受けられるかは人によります。「争わない」という判断も、それ自体が不当なのではなく、状況に応じた選択です。ただし、次の共同研究では同じことが起きないよう、着手時の合意を必ず取ってください。
自分が加害の側にならないために
ここまでは、不利益を受ける側の話でした。ただ、この記事を読む人のなかには、指導する立場、共同研究を主導する立場の方もいるはずです。
問題になりやすいのは、悪意のある行為よりも、良かれと思ってやることです。
研究室の全員を著者に入れる。手伝ってくれた学生に業績を作ってやりたい。データを提供してくれた施設の担当者に礼を尽くしたい。動機は善意でも、要件を満たさない人を著者に並べれば、それはギフトオーサーシップです。しかも、その人自身が④の説明責任を負うことになります。本人が内容を把握していない論文で、責任だけを負わせることになる。
謝辞は、格下の扱いではありません。要件を満たさない貢献に対する、正しい記載方法です。
これらの貢献が軽いという意味ではありません。著者の要件とは別の軸だ、というだけです。
おわりに
オーサーシップの問題が難しいのは、業績が研究者の生存に直結しているからです。1本の筆頭論文が、学位や採用や昇任を左右する。だから、譲れないし、譲らせたくなる。
基準を持ち出せば解決する、という話ではありません。ただ、基準があることと、それを着手時に共有しておくことには、確かな意味があります。後で交渉するときの足場になるからです。
いま進行中の共同研究があるなら、次に会うときに一言だけ確認してみてください。「著者のことですが、投稿規程に沿って決めていく形でよいですよね」。この一文が、半年後の自分を助けます。
※ 著者要件の基準や学術誌の規程は改訂されることがあります。実際の判断にあたっては、投稿先の最新の投稿規程と、所属機関の規程をご確認ください。
※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。
言い出しにくい相談こそ、外の人間に
著者の要件の確認から、切り出し方の相談まで。博士(医学)の代表が直接お受けしています。第三者ハラスメント相談窓口の運営経験もあります。
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