公表を求めた数字は、いまも公表されていません――看護学校の要望書から2年半

研究スキル情報

先月、看護師国家試験の合格率について書きました。学校ごとの合格率は公表されているのに、学校ごとの入学者数と退学者数は公表されていない。だから、入学した人のうち何人が受験にたどり着いたのかは、外から計算できない。そういう話でした。

あの記事には、書かなかったことがあります。その公表を求める要望書が、2年半前に政府へ提出されているということです。

2024年1月23日、議員会館で

「看護学校におけるパワハラを伴う指導の禁止を求める要望書」が、内閣総理大臣・文部科学大臣・厚生労働大臣あてに提出されました。あわせて、23,903名分の署名も。

集めたのは、看護学校で被害を受けた学生のご家族の方々です。全国の看護学生と卒業生を対象にしたオンラインアンケートを自ら実施し、北海道から沖縄まで各地から回答を得て、その結果を添えていました。深刻な健康被害や、修学の継続が困難になった事例が、各地から報告されていました。

当社の代表は、この日、提出の場に同席していました。株式会社コノラボの代表として、またアカデミックハラスメントの撲滅を目指す国際団体 Academic Parity Movement の International Advisory Board Member として。

要望書を作り、署名を集め、政府に届けたのはご家族の方々です。私たちはその場にいた者にすぎません。ただ、そこで何が求められたのかを、記録として書いておきたいと思います。

8つの要望

要望書が求めたのは、次の8点でした。

  1. 学内や都道府県のハラスメント対応が機能していない事例が多く示されたため、国による調査や指導ができる環境の整備、あるいは利害関係のない民間の第三者機関や弁護士等との契約といった、実効性のある対策を推進すること
  2. 学生の健康を守るため、高等教育における1単位の考え方(45時間=授業時間+授業時間外の自己学修時間)の定めを周知徹底すること
  3. 毎年多くの退学者を出しながら、その人数を母数に含めずに国家試験の合格率を掲げる学校がある。毎年の退学者数を入学希望者に周知するよう定めること
  4. 被害を受けた学生への救済制度(他校編入時の単位の継続、学費の返還、転校時の学費補償など)を作ること
  5. 看護学校の教職員とその長、実習先の医療関係者に対し、学生への合理的配慮や安全配慮義務、ハラスメント予防に関する研修の受講を義務付けること
  6. ハラスメントを伴う指導が確認された学校に対し、学校側が対策に動く誘因となる措置を取ること
  7. 2022年11月の答弁で言及されたハラスメント対策に関する実態調査の結果を、広く国民に周知すること
  8. 問題が生じた場合、加害の可能性のある組織側の都合による人選ではなく、独立した第三者委員会の調査により事実確認がなされるようにすること

3番目に注目してください。これが、先月の記事で「公表されていない」と書いた、まさにその数字です。

これは、2度目の提出でした

2022年10月の第1回署名提出から2026年8月の公開データ確認までの時系列を示した図
図1 署名提出から政府答弁まで

1回目の署名提出は2022年10月8日でした。その翌月、11月8日の参議院厚生労働委員会で、倉林明子議員の質問に対し、厚生労働省は各都道府県における看護師等養成所のハラスメント対策に関する実態調査を実施する予定であると答弁しています。加藤勝信厚生労働大臣(当時)からは、看護学校におけるパワハラ行為は教育の自由な裁量権の範囲内ではなく、許されるものではない、という趣旨の答弁がありました。

2024年1月の要望書は、その1年3か月後です。答弁はあった、しかし現場は変わっていない。だから2度目を出す、という提出でした。

その後、国会でもう一度問われました

2025年6月3日、衆議院に「看護基礎教育現場におけるハラスメント防止と看護師養成教育の質の保障に関する質問主意書」が提出されます。北海道立高等看護学院をはじめ、複数の学校で第三者委員会がハラスメントを認定した事実を挙げ、実態調査の実施、専任教員の資格要件、外部の第三者による相談体制、臨地実習の時間の扱いなどを、政府に問うものでした。

6月13日、答弁書が閣議決定されます。要点はこうです。

実態調査について 令和6年度から実施している事業では、ハラスメントの実態に関する調査を行う予定はない。
退学・留年・休学が多発している学校を含めた教育現場の実態について 各都道府県において適切に把握されるべきものと考えており、現時点において、政府として当該実態の調査を行う予定はない。

資格要件を指定規則に規定することについては「慎重に検討すべき」。教員から学生へのハラスメント禁止を指定規則に規定することについても「慎重に検討すべき」。都道府県への指導については「政府としては行っていない」。

要望書の8項目のうち、制度として前に進んだと言えるのは1つでした。外部の相談窓口です。2024年に厚生労働省が委託して作成された報告書に、相談窓口が内部のみではハラスメントを相談すること自体を躊躇することも想定されるため、外部機関の相談窓口も用意することが理想である、と記載され、都道府県を通じて各養成所に周知されています。

そして、2026年8月

先月、公開データを調べました。学校ごとの受験者数と合格者数は、厚生労働省の学校別合格者状況にあります。学校ごとの入学定員も、文部科学省の一覧にあります。

学校ごとの入学者数と退学者数は、ありませんでした。入学状況の調査は毎年実施されていますが、公表されているのは設置主体別・都道府県別の集計です。

2年半前に公表を求めた数字は、いまも公表されていません。

だから、合格率を見ても、その学校に入学した人がどれだけ受験にたどり着いたのかは分かりません。丁寧に育てて全員を送り出している学校と、途中で人数が減った学校の区別が、外からはつかない。要望書の3番目が言っていたのは、このことです。

当社について、ひとつだけ

要望書の1番目は、利害関係のない民間の第三者機関を含む、実効性のあるハラスメント対策を求めていました。

当社は現在、看護専門学校の外部ハラスメント相談窓口を受託・運営しています。国に求めた仕組みを、いまは自分たちで担っている、ということになります。

おわりに

要望書は、8項目のうち7項目について、目に見える制度の変化を生みませんでした。そう書くと、無駄だったように読めるかもしれません。

ただ、23,903名分の署名は提出され、大臣答弁が議事録に残り、質問主意書と答弁書という形で政府の見解が公文書になりました。何が変わっていないのかを、いま誰でも確認できます。「調査を行う予定はない」と書かれた文書があることは、それ自体が次の材料です。

記録は、残っていれば使えます。あの日のことを書いておくのは、そのためです。

※ 本記事は、要望書(2024年1月23日提出)および衆議院の質問主意書・答弁書(2025年6月)に基づき、2026年9月2日時点で作成しました。制度の状況はその後変わる可能性があります。
※ アンケートに寄せられた個別の事例については、回答者が特定される可能性を避けるため、本記事では記載していません。

ハラスメントの相談窓口が、学内にしかないとき

当社は、教育機関向けの外部ハラスメント相談窓口の受託・運営を行っています。導入のご相談も承ります。

相談してみる(無料) アカデミックハラスメントについて

あわせて読みたい

友だち追加
カテゴリー
アーカイブ